私たちは、何を未来に残すのか

Case X | 税理士法人ASCOPE

利益だけでは説明できない経営がある。

その人は、何を基準に意思決定し、何を未来に残そうとしているのか。

そんな実践を観察するために、「商いと潮流」は始まった。
その背景にある考えを、税理士法人ASCOPE代表 松崎に聞いた。


――なぜ、その人に会いに行くんですか?

その人が、どういう価値観と判断基準で意思決定しているのか知りたいんですよね。

利益は大事、経済合理性も大事。でも、話を聞いていると、それだけでは説明できない選択をしている人たちがいるんですよね。短期的な利益だけを考えていたら、もっと別の選択肢もあるはずなのに、あえて違う道を選んでいるように見える。それは仕事をセーブすることかもしれないし、地域への投資かもしれないし、文化活動かもしれないし、自然環境かもしれない。何なのかは人によって違います。

税理士の仕事って、基本的には「待ち」なんです。顧問先から相談をいただき、それに対して知見や助言を提供する。そうやって意思決定を支援する仕事だと思っています。だから、そういう人たちの話を聞きたいなら、会いたい人には自分から会いに行かないといけない。

ただ、面白い事例を集めたいわけではなくて、むしろ、そういう実践の中に、これからの時代を考える上で見過ごせないものがある気がしている。だから観察が重要だと思ってるんです。


――ASCOPEはなにを残したいんですか?

税理士の役割を更新したい、というのが近いかもしれないですね。もっと言うと、中小企業経営の当たり前を更新したい。

例えば、うちは会計事務所なのに読み物メディアをつくろうとしているし、アートギャラリーの運営も準備している。働き方の裁量は大きいし、評価制度には成果だけでなく人間的な成熟や助け合いといった要素を取り入れていたりします。少なくとも、私たちの知っている他の税理士事務所とは違うことにも取り組んでいる。

もちろん、それが利益に直結するわけではないです。それでもやろうとしているのは、経営って本来もっと広いものだと思うからなんですよ。経営というと、利益の最大化や効率化の話になりがちですよね。もちろん利益は大事だし、利益がなければ続かない。ただ、本当はそれだけじゃない。

社員は疲弊していないか。その家族はどうか。
外部パートナーとの関係は健全か。
自然環境への影響はどうか。
文化や歴史への敬意はあるか。
経営者自身は幸せを感じているのか。

そういうことも含めて経営なんじゃないかと思っています。

税理士は、申告書を作ったり節税を考えたりするだけではなく、そうした意思決定を支援する存在になれると思っているんですよね。利益だけじゃなくて、「なんのためにやってるんだっけ?」を普通に話せる経営。ASCOPEとして残したいのは、そういうことが特別ではない状態なのかもしれません。


――そのために、どんなことをしようとしているんですか?

大きく分けると2つあります。

ひとつは、税理士として、会計事務所として、日々の顧問先支援の中でそうした意思決定を支援していくこと。税務や会計は当然きちんとやる。その上で、「どう節税するか」だけではなくて、「何のために事業をやっているのか」とか、「何を残したいのか」とか、そういう話も一緒に考える。それが税理士の役割のひとつになれるんじゃないかと思ってるんですよね。

もうひとつは、そうした実践との接点を増やすこと。利益だけでは説明できない経営をしている人たちは、すでにたくさんいる。余力はあるが案件量をセーブする人もいるし、地域に深く関わろうとする人もいるし、文化活動を続けている人もいるし、自然環境を大切にしている人もいる。でも、自分とは遠い世界の話に見えてしまうことが多い。だからまずは知ることから始めたい。「商いと潮流」もそのひとつです。

「あ、自分もこういうことを考えていいんだ」
「こういう経営の仕方もあるんだ」

そんなふうに思えるきっかけを増やしたいんですよね。


――誰のための活動なんですか??

個人的な思いで言えば、将来世代のためなのかもしれない。あるいは、自分たち自身のため。

でも、最初からそんなことを考えていたわけではないですよ。誰だって、この仕事を始めた頃は顧問先のためだと思います。どうすれば利益を残せるか。どうすれば事業が安定するか。そういうことを考えている。でも、顧問先支援を続けていると、少しずつ違和感を持つようになったんですよね。

数字としてはうまくいっている。利益も出ている。でも、心から嬉しそうには見えない。幸せそうにも見えない。違和感がある。そんな場面に何度も出会ったんです。もちろん利益は大事。でも、それだけでは十分じゃないのかもしれない。そう思うようになりました。その事業を通じて、本当は何をしたかったのか。そもそも、なぜ始めたのか。そういう話をする機会が少しずつ増えていったんですよね。

だから今は、顧問先のためというより、その事業に関わる人たちや、その先の未来も含めて考えている感覚に近いのかもしれません。


――葛藤はなんですか?

これもまた2つあって、ひとつは、利益との両立ですね。利益だけじゃない価値が大事だと言っても、まず事業が続かなければいけない。特にスモールビジネスはそうで、きちんと利益を出せること、そしてそれを続けられること。まずはそこが出発点。その上で、自分たちにとってどの程度利益があれば十分なのかを考える。余剰が生まれて初めて、地域や文化、人との関係性など、自分が大切にしたいものとの関わり方を選べるようになる。だから、利益か社会価値か、みたいな単純な話ではないんですよね。誰もが社会課題を解決する事業をやる必要もないし、それぞれが自分なりのグラデーションの中で、行ったり来たりしながら実践していくものなんだと思いますね。

もうひとつは、利益の最大化を中心に考える価値観の根深さです。私たち自身もそうですし、多くの人もそうだと思うんですが、経済成長や効率化を前提とした社会の中で育ってきた。だから、それ以外の価値を考えようとしても、気づかないところで元の考え方に戻される引力が働きやすい。何度もいいますが、利益を出すこと自体はもちろん大事。ただ、それだけでは説明できない選択や実践も確かに存在していて。だからこそ、少し視点をずらしたり、別の実践に触れたりする機会が必要なんだと思ってるんですよね。私たち自身だって、その途中にいるひとりだと自覚しています。

話し手

松崎 怜
税理士法人ASCOPE 代表

税理士として中小企業の意思決定を支援する。
利益だけでは説明できない経営の実践を観察するため、本メディア「商いと潮流」を立ち上げた。

「商いと潮流」は、その観察記録である。

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