店と客の関係性を問い直す

Case1-1 | 大黒株式会社 
2026年4月 取材

サービスをする側と、される側。
その境界線をあえて崩してみたとき、
人と街との間には、どんな関係が生まれるのか。

高円寺のアートホテル「BnA」のバーカウンターで、
大黒株式会社代表 大黒健嗣さんに話を聞いた。

「対価」をもらう瞬間に、何かが終わる

……そもそもね、ここのホテルのバーでお金をもらうという行為自体に、自分の中でずっと違和感があったんだよね。だから、今考えているのはバーを無料にしちゃうっていう。「店と客」っていう形を、一回なくしてみたいんだよね。

――無料、ですか。イベントとかじゃなくて、日常的に?

そう。それが最初からの実験。だって、実費でいえば原価は3割程度じゃない?場所代はどっちにしろかかっているし、その3割をこっちで持って、開放してしまう。そうすると、そこに来る人との関係性が「店と客」じゃなくなるんだよね。

つまり、コミュニティをどう捉えるか。こういう風にお店がある限り、バーマスターに集まるいろんなクリエイターがいるけど、そこは結局お客さんなわけでさ。仲間とはいえ、収入源でもあるわけだよね、それぞれのバーテンダーの。それはそれで高円寺らしい風景なんだけど、「お店のファンが日常的にクラファンしてる光景」みたいな感じだよね、バーって。

なんだけど、なんか俺にとってはやっぱり持続的であるためには、ホテルや全体のビジネスを含めて、こっちがみんなにペイを発生させる経済モデルにしないといけないと思っていて。

――普通は、どうやって原価を回収して利益を出すかを考えちゃいますよね。

そうなんだけどさ、お金をもらった瞬間に、関係がそこで完結しちゃう気がして。

こちらが一方的に贈与することで、相手の中に信頼関係のギャップが生まれるでしょ。「え、なんでタダなの?」っていう戸惑いも含めて。そのギャップが、実は一番の価値になるんじゃないかな、と。

――なるほど。

よく「花は根のため」って言うんだけどね。目に見えるこのホテルとかここでやるイベントは「花」に過ぎない。でも、本当にやりたいのはその下にある「根」。地域との信頼という根を育てることなんだよね。

根が張っていれば、花は放っておいても勝手に咲く。だから、その一杯の酒代をもらって関係を「貸し借りなし」にするより、もらわないことで根を深くする方を選びたい。

大黒さんが手書きした「都市のクリエイティブ生態系」

「店と客」の関係を仕事のパートナーに変える

――店と客の形をなくした先では、具体的にどういうことが起きていくんですか。

今の事務所に移るまではこのBnAホテルのバーをオフィスにもしてた。俺が行政とかデベロッパーから仕事を持ってきて、この街の人に発注して、そのパートナーシップを組んだ人たちがここに集まって仕事する場にしてて。そうすると、夜のバーに遊びに来た人が集まってるっていう状態なんじゃなくて、昼間に自分の活動とか働きに来ている人がここにいるっていう状態になった。

そうすると、ホテルを運営していることの意味とか、ホテルやバーのお客さんの価値みたいなものを、メタ視点でみんながそれを理解しているから、ホスピタリティがめちゃくちゃ上がって。Airbnb上でこの数年で言うと杉並では一番ランクが高いとか、多分4.96とかそういう点数感なのね。

――4.96。すごい数字ですね。

ここも長いね。もう10年。コロナ禍で1回なくなることになって、じゃあうちで引き取りますになって、それも3年半経つのかな。それでもう合計で10年。一応10年やろうと思って続けたから、こっからどうしてこっかなって感じだけど、やっぱり、お客さんとの関係性をどう作るかだよね。

――そもそも、この高円寺という街に関わろうと思った、最初のタイミングはどこだったんですか?

その経緯はやっぱり……何にも持ってない自分がポンって高円寺の街に来て、店をやってるうちに街の人にアイデンティティが認められていく、というか。自分がちゃんと独立した自分で社会の中に交じれたっていうのが、俺の場合、学校とか会社とかじゃなくて、この町だったから。自然とゆかりもできていった。愛着も自然とできていったんだけど。

――関わろうとしてじゃなく、自然と居場所になっていった。

自分が高円寺に住んでるから、この徒歩圏内の環境を自分にとっても良くしていきたい。自分にとって良いっていうのは、いる人たちがみんな楽しそうで、イライラしてない状態じゃないと絶対ダメだと思った。だから、結局エリアごと良くしないと自分の平和っていうか自分の幸せも訪れないって思ったんで、結構個人主義的なところは昔の自分と変わってないんだよな、実は。

――それが大黒さんの言う「地域づくり」になっていく、と。

アウトプットとしては、土壌からお花が咲くこと、つまり、メディアとかに取り上げられる作品だったりイベントだったり。けど、俺が作ろうとしてるのは、そのいい土を作るために根っこを伸ばしていくこと。そこには養分が必要で、根っこと、いい土を作りたくって。いい土さえあれば勝手に次々と花が咲いてくるみたいな感じで。だから「花は根のため」って言ってて。

――花は根のため、ってそういうことだったんですね。

そうそう。最初は、花を目的にして頼んでくる人たちがいて、だんだん「あ、根っこが重要なんだな」ってみんなに気づいていってもらうプロセス。そこを今、この街の現場でずっとやっている感じだね。。

つづく

話し手

大黒 健嗣
大黒株式会社 代表

高円寺を拠点に、
アートホテル「BnA」や地域拠点「おうち」を運営。
都市に壁画を描く「MURAL PROJECT」プロデューサー。
アートを通じた地域との関係性を再構築する実践を行っている。