前提の違う時代に、里山の意義をどう編み直すか

Case2-1 | 一般社団法人林業芸術社
2026年4月 取材

かつて成り立っていた循環は、なぜ続かなくなったのか。
変わったのは、里山ではなく、
私たちの暮らしや社会の前提だった。

長野県御代田町で、新しい時代の里山の意義を模索する一般社団法人林業芸術社 太田泰友さんに話を聞いた。

ただの「良い活動」じゃ、回らない

――去年の4月に一般社団法人にされてから、約1年が経ちました。今、現場では具体的にどういう活動をされているんですか?

 一番ベースにあるのは、里山の環境を持続させるための整備作業ですね。あとは手入れをした木材で薪を作ったり、最近だと家具工房と一緒にものづくりをしたりしています。

今、木を売って山を回そうとすると、木の値段が安すぎて量を増やすしかなくなるんですよ。でもそれって、環境的には全然持続性がない。だから、木を売る以外で山から価値を生み出せるように、人が関われる体験プログラムを作って案内したりしています。

――太田さんがそもそも里山に関わるようになった最初のきっかけは何だったんですか?

もともとブックアート(※1)の制作で木材を使っていたんですけど、東京にいた頃は「実は木のことをあんまり知らないな」と思っている程度で、里山までは行き着いていなくて。移住した時に薪が必要になって、急に里山が現実味を帯びたんです。

買う選択肢もありましたけど、せっかくなら自分で薪を作ってみたほうが、もうちょっと木のことが分かるんじゃないかと思って。そこで地域の里山団体に参加したのが、一番最初のきっかけです。

(※1)本を単なる情報のメディアとしてではなく、彫刻や絵画のような「美術作品(表現の素材)」として捉えて制作される芸術分野

――実際に山に入ってみて、何が見えてきたんでしょうか。

関わりながら里山の仕組みが見えてきたんですけど、参加させてもらった薪づくりの活動を見ていて、「この仕組みのままじゃ、長くは続かないな」と感じたんです。

たくさんの人が関わるグループだったんですけど、みなさんそれぞれ仕事や生活もありますし、どうしても一部のメンバーや師匠に作業の負担が偏ってしまうところがあって。みんなが安く薪を手に入れられる裏には、そうした「一部の人の頑張りや善意」に甘えてしまっている現実があったんですよね。

でも、指導してくださる師匠も、このやり方のままじゃ数年はもっても、次の世代に繋ぐのは厳しい と、この先への不安を口にしていたし。生活に絶対必要というわけでもなく、儲かるわけでもない。そんな中で一部の人の負担だけに頼るやり方だと、どんどん里山に入る人がいなくなってしまう。もしかしたらこのまま途絶えてしまうかもと、リアルな現場を目の当たりにして、危機感を覚えたんです。

――昔は成り立っていた仕組みが、今はもう機能しなくなっている、と。

前提の違う時代に、新しい意義を編み直す

そうですね。もうひとつ、その薪の団体も「里山を何とかするために薪を作ろう」って言っていることは何も間違っていないんです。だけど実際の作業を見ると、自分たちが薪を作るのに都合の良い場所を選んでいて 。

薪を得るためには理にかなっているけど、薪作りに都合の良い場所は、里山全体の一部であって。それ以外の部分もなんとかしないと、里山の持続にはつながらないんですよね。 。

これは僕がやってきたブックアートの話とも通じると思っていて。かつて衰退した活版印刷などが「味わいがあっていいね」と再評価されるブームがありましたけど、それって一時的な懐古主義でしかなくて、衰退した根本的な課題を解決しないと持続はしないんです。

里山も同じで、「薪がいいよね」だけだと弱い。昔は集落全員が山に入って作業をする時代だったから成り立っていたわけで、今それをやろうとしても前提がもう違うんです。

ただひたすら薪を作り続けるのは、僕がやりたいことじゃない。だとしたら、自分が本当にやりたい表現や追求を実現しながら地域の課題も解決できれば、どちらにとってもいいバランスの方法が見つかるんじゃないか、と考えるようになっていきました。

――そうですよね。一部のボランティア活動だけだと、やっぱり続けられないですし。

まさにそこが課題で、興味を持ってくれる人はいても、本業にしてやっていける状況にはまだできていなくて。「これで食べていけるなら、今やっている仕事を辞めて山にもっと関わりたいんだけど」とよく言われるんです。 

ボランティアだけだと持続しないし、利益を求めすぎても持続しない。環境的にも経済的にも持続する方法を追究しています。 

だから、一か八かみたいな挑み方はしないけれど、今を守れるギリギリの中で、みんながその挑みを本気で持ち寄っていく。その中で可能性を高めていくのが、大怪我をしない方法なのかなと、この1年で実感してきています。

つづく

話し手

太田 泰友
「一般社団法人林業芸術社 」代表 / OTAブックアート代表 

ドイツにて、ブックアート最高学位「マイスターシューラー」号を日本人初取得。2017年に、「OTAブックアート」を設立し、拠点を東京へ移す。その後、長野県御代田町へ移住し、2023年4月に林業芸術社を設立、2025年4月に法人化。自伐型林業と芸術をかけあわせ、人と里山が自然と関われるプログラムや、持続可能な里山の保全に挑戦している 。